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コートハウス~屋上庭園

敷地面積: 196.65m2
延床面積: 155.37m2
『帰ったら電話下さい。』

母からの留守電だった。深夜会社から帰った僕は普段ならかけない電話をなぜかした。

『Mさんがあんたにお家を設計して欲しい、って言うてはるねん。あんたどうする?』

勿論答えは決まったいる。でも僕はその時まだ会社員で、自分の事務所も立ち上げていなかった。つまり処女作の依頼がきたのだ。母には『勿論やらせて欲しい』と伝え電話をきった。その後、これはえらいことになったぞ、と正直思った。嬉しくて嬉しくて、その晩は興奮してなかなか眠れなかった。

Mさんにお会いし、土地の状況や要望などを確認した。Mさんは母の友達で、僕が学生時代から世界へ貧乏一人旅に出ていることや、建築をやっていることを母は話していたようで、Mさんはそんな僕に終の住処を作って欲しい、と実績のない僕に依頼してくれたのだ。

そして勤めていた会社を辞め、この初仕事に向き合う日々が始まった。あれもしたい、これもしたいと湧き上がるイメージを寝る間も惜しんでスケッチする日々。
毎日3食素うどんと納豆ご飯で案と格闘する日々。障子の組子(桟)を決めるために、奈良や京都に出かけ1枚の障子だけでも1週間も2週間も悩んだ。結局最後まで悩んで現場で原寸模型を作って決めたが。
Mさんのおかげでそんな夢のような4年を過ごさせて頂いた。

建築をつくる過程で様々な問題にもぶつかった。今だからこそこれ以上はもうないやろ、と笑って思えるが、厳しい経験もさせて頂いた。そして何より感謝の言葉しか思いつかない。今僕が存在しているのもすべてMさんのおかげだ。
今でも母に会うたびに『Mさん、お家すごく喜んでる、って。』と教えてくれる。
建築には本当に人生を教えられる。本当にありがたい。

そしてあの夜、留守電をくれた母に感謝したい。