茨木の森

『吸い込まれそうですね。』

初めて施主に土地の写真を見せられた時、そうつぶやいた。

施主は大きな住宅地図を広げ、ひとつずつ空き地を探しては売り土地の看板がないか
を繰り返し、この土地に辿り着いた。
この森に吸い込まれるように。

会うたびに距離が縮まり、昔から知り合いだったようなそんな人間関係を築く中。
『私達は山本さんに全てお任せしています』そんな有り難いお言葉を頂戴した。
それだけに余計、この土地にどのように建物を着地させようか、悩みが深くなる一方だった。
ファーストプレゼンで感激して頂いたこのプランが真実なのか、いや他に真実はあるのか。
全ては僕に委ねられている。目を閉じ、事務所をウロウロする日々が続く。そして旅に出た。
旅先で感じたままスケッチを繰り返す日々。新しい案が完成した。

あの土地にどのように建物を着地させるか。

建物のあるべき姿を探す。その土地に最もふさわしい建物の姿。があるはず。
幾度となく土地に通い、悩んだ。この仕事には土地の力を教わった。

完成した夏のある日。
土地の神様が涙が出るような光景を見せてくれた。